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①本文
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか
あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ
あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう
あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙の中に立ちどまる
ぼくはきみの血の中にたったひとりで帰ってくる
ー『言葉のない世界』
②著者情報
田村 隆一(たむらりゅういち)
1923年〜1998年。詩人。東京都の生まれ。第二次世界大戦後、硬質なイメージの散文詩を発表した。人間文明への鋭い批評を内在させた詩作品によって、戦後を代表する詩人の一人である。詩集に『四千の日と夜』『腐敗性物質』などがある。
③勉強のポイント
①「言葉のない世界」とはどのような世界のことか、イメージする
②比喩や逆説に着目し、言葉の意味の深みと広がりを理解する
③「帰途」というタイトルから、「ぼく」の心の在り処を考える。
④作品をざっくり理解しよう
「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」という逆説で唐突に始まる作品世界から、作者が言葉に対して強い思い入れを持つことを理解する。言葉には意味があるから、「あなた」や「きみ」がそれに傷つき、自分はそれに無関係ではいられない。言葉があることで、「あなた」や「きみ」の涙や痛みに常に帰ってくる存在となる。
⑤漢字・重要語句
【1】言葉なんかおぼえるんじゃなかった
《意味》
言葉をおぼえることなく、思考も認識も発語もできない。逆説的で唐突な言葉への思い入れである。
【2】言葉のない世界
《意味》
この詩が収録された詩集のタイトルでもある。
【3】意味が意味にならない世界〜よかったか
《意味》
言葉による意味づけがなされない世界に生きていたら、言葉をおぼえたゆえに被るものがない。「どんなに〜か」は修辞的に、ありえない仮定をしていること。
【4】美しい言葉に復讐されても
《意味》
美しい言葉の中に潜む思いがけない意味にあなたが復讐されたとしても。言葉はさまざまな意味に解釈されうることが暗示されている。
【5】ぼくとは無関係だ
《意味》
言葉のない世界、意味が意味にならない世界であればぼくとは無関係だ、ということであって、実際は無関係ではあり得ないということを言っている、逆説的表現である。
【6】静かな〜流したところで
《意味》
「静かな意味」は大声で主張はしないが、胸にしっかりと抱いた信念や矜持、誇り。それらを持つが故に、血を流すように苦しむこともある。
【7】涙
《意味》
美しい言葉に復讐されてこらえている涙。
【8】沈黙の〜痛苦
《意味》
「静かな意味」に血を流し、沈黙して耐えている痛み。
【9】僕たちの〜言葉がなかったら
《意味》
「意味が意味にならない世界に生きてたら」と呼応している
【10】ぼくは〜立ち去るだろう
《意味》
言葉がなかったら、あなたの涙やきみの沈黙の意味も理解することも、想像することもできず、ただ眺めて立ち去るだけである。
【11】君の〜ひびきがあるか
《意味》
きみの流した一滴の血の意味を考えているのである。
【12】言葉なんか〜なかった
《意味》
詩の出だしと呼応した表現。冒頭の表現とともに最終連の一行目は逆説的表現である。
【13】日本語とほんのすこしの外国語
《意味》
自分が使える言葉としての「日本語とほんのすこしの外国語」という意味。これらの言葉をおぼえたために、自分は「あなたの涙」や「きみの血」と無関係に立ち去ることはできない。
【14】ぼくは〜立ち止まる
《意味》
ぼくは「あなた」の涙の外へ出て行かずに「あなた」の涙の意味を考え続けるということ。
【15】 きみの血の〜たったひとりで帰ってくる
《意味》
「きみ」の血の意味をひとりで考え続けるために言葉の世界へ戻ってくる。この、言葉の世界への帰還が、タイトルの「帰途」とつながる。言葉の世界を引き受け帰還するまでの「帰途」の思考が、まさにこの詩である。
⑥段落要約
『帰途』は詩のため、段落要約はなし!そのかわり第一連〜第五連までの構成・表現技法などを説明します。
【1】第一連
言葉のない世界
第一連は、言葉のない世界、意味が意味にならない世界に生きていたらどんなによかっただろうか、という逆説的な修辞である。
【2】第二連
ぼくは無関係
第二連は、言葉が意味にならない世界に生きていたら、「あなた」や「きみ」が美しい言葉や静かな意味に復讐され、血を流してもぼくは何も感じず無関係でいられるという内容である。
【3】第三連
もし言葉がなかったら
第三連は、ぼくたちの世界に言葉がなかったら、「あなた」の涙や「きみ」の言葉にならない痛苦もただ眺めるだけでいられたという内容である。
【4】第四連
あなたの涙ときみの一滴の血
第四連は、この連だけが三行の構成となっている。「あなたの涙に〜意味があるか」「きみの〜ひびきがあるか」とは、「あなた」や「きみ」への問いかけではなく、「あなた」や「きみ」をどれだけ感じているかという自分への問いかけである。
【5】第五連
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
第五連は、第一連と呼応させて、言葉によって「ぼく」は「あなた」や「きみ」の涙や血を自分の中に感じ続ける、つまり、言葉とともに、他者の痛みとも関わることを引き受ける、ということである。
【6】詩の形式・表現技法・特色
この詩は五連十九行からなる口語自由詩である。第四連だけが三行で、他の連は四行構成になっている。
⑦定期テスト予想問題
【第一問】
「言葉のない世界」とはどういうものとして表現されているか、説明せよ。
【解答のポイント】
「言葉のない世界」は第一連の三行目で、「意味が意味にならない世界」と言い換えられている。また、第二連も、一種の「言葉のない世界」の説明である。そして、第三連の「あなた」の「涙」や「きみ」の「痛苦」を眺めていられる世界のことでもある。それらをまとめる。
【解答例】
「言葉のない世界」とは、意味が意味にならない世界、言葉による意味づけが行われない世界のことである。そのような世界では、あなたが美しい言葉に復讐され、きみが静かな意味に傷つき血を流したとしても、無関係でいられる世界のことである。また、あなたのやさしい眼の中にある涙や、きみの沈黙の舌から発せられる言葉にならない痛苦をただ眺めていられる世界のことでもある。
【第二問】
「帰途」という表題には、どのような意味が込められているだろうか。「ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる / ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる」という詩句に注目して説明せよ。
【解答のポイント】
言葉をおぼえてしまったがゆえに、他者の悲しみや苦しみの意味を考え、無関係ではいられなくなった重み。その重みのために、言葉のない世界に逃れることを想像するが、「ぼく」は、言葉の世界に「帰ってくる」。言葉で、他者の痛みに関わり続ける覚悟。言葉の世界を引き受け帰還するまでの「帰途」の思考が、まさにこの詩の作品世界である。それをまとめる。
【解答例】
言葉のない世界へ逃れることを想像してみるものの、言葉のある世界に戻る覚悟をして帰還するまでの「帰途」という意味。
詩は面白いですが、解釈が難しいですね!!
最後まで見てくださってありがとうございました🐻
定期テストがんばれ〜🐻
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