【定期テスト対策】永訣の朝《宮沢賢治》 | 教科書本文解説・漢字語句(現代文)

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⓪授業前にひとこと

皆さんには、愛する人がいますか??
自分にはいます。
ぜひ、その人を思い浮かべながらこの作品を味わってほしいです🐻

もちろん定期テスト対策として授業はしますが、単なる文章として消化して欲しくないという思いが自分にはあります。それだけの、文学作品だと思っています!

今より約100年も前に生まれた作品が、なぜ今も心を打つのか?それは「大切な人を愛する気持ち・幸せになってほしいという願い」は変わらないからなのだと思います。

難しい表現はありますが、そこだけでこの「永訣の朝」という作品を嫌いにならないでほしい🐻できるだけ分かりやすく説明するので、「永訣の朝」が届けようとしている、宮沢賢治が作ろうとしている世界観を味わってほしいです。

自分も大切な人を想いながら授業をするので、ぜひ皆さんも大切な人を想いながら、授業を受けてもらえると嬉しいです🐻
(泣いてしまったらすみません…)


①本文

けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
  (あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつそう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
  (あめゆじゆとてちてけんじや)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつたてつぱうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
  (あめゆじゆとてちてけんじや)


蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
  (あめゆじゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
 銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを……


……ふたきれのみかげせきざいに
みそれはさびしくたまつてゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまつしろな二相系をたもち
すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらつていかう
わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ
みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)


ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ
あああのとざされた病室の
くらいびやうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ
この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
  (うまれでくるたて
   こんどはこたにわりやのごとばかりで
   くるしまなあよにうまれてくる)
おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが兜率の天の食に変つて
やがてはおまへとみんなとに
聖い資糧をもたらすことを
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

ー『春と修羅』


②著者情報

新潮社より

宮沢 賢治(みやざわけんじ)
1896年〜1933年。詩人・童話作家。岩手県の生まれ。農学校教師や農民として暮らしながら、数多くの詩や童話を書き残した。詩集に『春と修羅』、童話に『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』などがある。


③勉強のポイント

①最愛の妹が死す日の朝の詩で、この詩の背景を理解する。

②口語自由詩の長詩形式のなかに、岩手県花巻地方の方言で表現される妹の言葉の響き、ローマ字表記の効果を考える。

③作品を通じて宮沢賢治の思想に触れ、理解する。


④作品をざっくり理解しよう

この詩は、宮沢賢治が妹の死に向き合った真摯で心深くからの絶唱である。

来世では(わりやのごとばかりでくるしまなあよに)生まれてきたいと願う妹の願いを、賢治は深い祈りと決意に昇華させ、死にゆく妹の魂に捧げた。


⑤漢字・重要語句

【1】永訣

《意味》
永遠の別れ。死別。

【2】とほくへいつてしまふ

《意味》
遠くへ行ってしまう。死別のことを指す。

【3】みぞれ

《意味》
雪がとけかけて雨まじりに降るもの。

【4】おもてはへんにあかるいのだ

《意味》
みぞれが降る戸外の様子を感覚的に捉えた表現。「へんにあかるい」に不吉な感じが表れている。

【5】(あめゆじゆとてちてけんじや)

《意味》
死にゆく妹の言葉。「雨雪を取って来てちょうだい」を指す。この言葉を聞いて、「わたくし」は「みぞれのなかに飛びだした」のである。

【6】うすあかく

《意味》
ほのかに赤味を帯びているさま。

【7】陰惨(いんざん)

《意味》
陰気でむごたらしいこと。「いんざん」は方言の読み。

【8】青い蓴菜のもやうのついた これらふたつのかけた陶椀

《意味》
「もやう」は模様。「かけた陶椀」は、欠けた陶器の茶碗。

【9】おまへがたべるあめゆき

《意味》
妹が「あめゆきを取ってきてください」と言ったのは、はげしい熱での乾きか、自らの「死に水」を意識したものであろうか。宮沢家は仏教を信仰していた。「死に水を取る」は、釈迦が臨終の際に水を求めたことから、死者の蘇生を願う儀式である。この後に出てくる「うまれでくるたて(また生まれてくるとしても)」を意識して解釈する。

【10】まがつたてつぱうだまのやうに

《意味》
大急ぎで外へ飛び出した「わたくし」の動作を例えた表現。

【11】このくらいみぞれのなかに

《意味》
これまで「へんにあかるい」「うすあかく」と表現されていた明るさが、ここでは端的に「くらい」と表現されていることに注意したい。自分が直面した世界の暗さであり、暗いからこそ、数行後の「わたくしをいつしやうあかるくするために」という言葉が、明暗のコントラスト(対比)をもって、いっそう明るく美しいものとなる。

【12】わたくしをいつしやうあかるくするために

《意味》
「いつしやうあかるくする」とは、一生の幸いになり、救いになるということであろう。「わたくし」は妹から「あめゆき」を取ってきて欲しいと頼まれて外へ飛び出した。そのようにして妹の願いを叶えてやることができるのは、苦しみの中の喜びであり、救いである。

【13】こんなさつぱりとした雪のひとわん

《意味》
びちょびちょと降るみぞれがここで「さつぱりとした雪」と言い換えられていることに注意したい。「雪」は、妹の美しい心の表象でもあるのだろう。

【14】ありがたうわたくしのけなげないもうとよ

《意味》
「けなげな」は、すこやかで感心な様子を表す。「ありがたう」と共に、妹の願いを「わたくし」のためにしてくれたことと感じた作者が、妹に感謝する気持ちを表した言葉である。

【15】わたくしもまつすぐにすすんでいくから

《意味》
妹と同じように「わたくし」も真っ直ぐに生きようと決心し、妹に誓っている言葉。

【16】銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの そらからおちた雪のさいごのひとわんを……

《意味》
前半では地球を超える宇宙的規模の広がりをいい、後半では「雪」を、そのような広大な「そら」からの贈り物として受け止める気持ちを表している。

【17】ふたきれのみかげのせきざい

《意味》
ここから実際にみぞれを取ろうとする場面になる。「ふたきれ」は二片のこと。

【18】そのうへにあぶなくたち

《意味》
みぞれの溜まっている「みかげのせきざい」の上に不安定に立って。

【19】雪と水とのまつしろな二相系をたもち

《意味》
みぞれを「雪」(固体)と「水」(液体)の要素に分けて表現したもの。この後に出てくる「松のえだ」にかかったみぞれの状態を表した言葉でもある。

【20】このつややかな松のえだから

《意味》
「つややか」はつやつやとして美しいさま。松は常緑樹で冬でも青々と葉をつけている。その木を選び、その枝に積もった雪をもらおうとしたのである。

【21】わたしたちがいつしよにそだつてきたあひだ

《意味》
ここから心中の思いが表現される。

【22】(Ora Orade Shitori egumo)

《意味》
(おら、おらで、しとり えぐも)と読み、(わたしは、わたしで、一人で逝きます)という意味。妹の声。ローマ字書きで音声の印象を強めている。

【23】とざされた病室

《意味》
家の中の、妹の寝ている部屋。

【24】びやうぶやかや

《意味》
室内に屏風を立て蚊帳を吊るしている。昔の習慣で、病人の安静のためだが、病床は暗くなりがちだった。

【25】あをじろく燃えてゐる

《意味》
妹の最後の命が燃えているさま。

【26】どこをえらばうにも

《意味》
最上の雪を選ぼうとするのだが、どの雪も真っ白で美しい。雪をたたえた表現である。

【27】あんなおそろしいみだれたそらから

《意味》
この「そら」は「銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの そら」の「そら」ではなく、「陰惨な雲」「暗い雲」と表現された頭上の空。その空と雪を対比させ、雪の美しさをたたえている。

【28】(うまれでくるたて こんどはこたにわりやのごとばかりで くるしまなあよにうまれてくる)

《意味》
「生まれてくるにしても 今度はこんなに自分のことばかりで 苦しまない世に生まれてくる」という意味。自分のことばかりで苦しまないように、とは、人のために苦しみたいということである。

【29】兜率の天

《意味》
仏教用語。遠い将来、この世に降って衆生(生命のあるすべてのもの。人間をはじめすべての生物)を救うと信じられている弥勒菩薩の治めている天。

【30】食(じき)

《意味》
食物のこと。

【31】聖い資糧(きよいかて)

《意味》
「聖い」は神聖な。「資糧」は活動を支える力や食糧。仏教では、修行のための準備のこと。

【32】わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ

《意味》
自分の幸福と引き替えに、妹と、妹が願ったみんなの幸福を願う気持ち。


⑥段落要約

『永訣の朝』は詩のため、段落要約はなし!また連を分けない一続きの長詩なので、作品の特色や表現方法を説明します。

詩の形式・表現技法・特色

冒頭に「けふのうちに とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ」とあるように、妹に呼びかける形で書かれている。

詩の形式は、口語自由詩。連を分けない一続きの長詩で、表記は歴史的仮名遣いで書かれているが、用いられている言葉は文語ではなく、普段の会話で用いられる口語である。

言葉の特色を挙げると、まず、「あめゆじゆとてちてけんじや」「Ora Orade Shitori egumo」「うまれでくるたて〜」など、作者と妹が生まれ育った岩手県花巻地方の言葉を、妹の言葉として用いていることが挙げられる。

それに( )をつけ、詩の中で繰り返し用いることによって、全体に反響させている。

また、この詩には、「蒼鉛いろの暗い雲」「銀河や太陽 気圏などとよばれたせかい」「雪と水とのまつしろな二相系をたもち」など、独特の用語を用いて、人為を超えた自然の世界の硬質で透明な広がりを感じさせている。

こうした言葉の特色は、宮沢賢治の他の詩作品にも見られ、作者の作品世界の特色とも言える。


⑦定期テスト予想問題

【第一問】
「わたくし」の行動と心情の変化を考えながら、全体を四つの部分に分けよ

【解答のポイント】
①妹にみぞれを取ってくるために飛び出した「わたくし」の行動
②妹が自分に頼んだことの意味を考えている場面
③松のえだからみぞれをもらう「わたくし」の行動
④死にゆく妹への「わたくし」の思い

【解答例】
①けふのうちに〜(あめゆじゆとてちてけんじや)
②蒼鉛いろの暗い雲から〜そらからおちた雪のさいごのひとわんを……
③……ふたきれのみかげせきざいに〜(Ora Orade Shitori egumo)
④ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ〜わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ


【第二問】
次の詩句には、「わたくし」のどのような心情が現れているか、それぞれ説明せよ。
①うすあかくいつそう陰惨な雲
②みなれたちやわんのこの藍のもやう
③やさしくあをじろく燃えてゐる
④あんなおそろしいみだれたそらから このうつくしい雪がきたのだ

【解答のポイント】
⑤漢字・重要語句、⑥段落要約で説明した内容を振り返ろう!

【解答例】
①妹の死が近いことを不安に感じる気持ち。
②幼い頃から生活を共にしてきた茶碗に、妹との思い出を懐かしむ気持ち。
③妹の死に近い命を愛おしみ、そのことに耐えかねる想い。
④不吉な予感すらする空から降る雪の美しさに感動する気持ち。


【第三問】
「(あめゆじゆとてちてけんじや)」の繰り返し表現は、この詩にどのような効果をもたらしているか。

【解答のポイント】
⑤漢字・重要語句、⑥段落要約で説明した内容を振り返ろう!

【解答例】
「(あめゆじゆとてちてけんじや)」の表現は、土地の言葉を用いることで、妹の言葉としてのリアリティを感じさせる。また、繰り返し用いることで、詩の前半全体に妹の声を反響させる効果をもたらしている。


【第四問】
次の詩句には、「いもうと」のどのような心情が現れているか。
①(Ora Orade Shitori egumo)
②(うまれでくるたて こんどはこたにわりやのごとばかりで くるしまなあよにうまれてくる)

【解答のポイント】
①(Ora Orade Shitori egumo)は「Ora Orade(自分は自分で)」と「自分」にあたる言葉を繰り返していることから、これまで共に生きてきた兄とも別れ、一人でひななくてはならない事故という存在の過酷なまでの有限性を感じていると考えられる。
②仏教で言う「利他」=他者の為に生きられる生への転生の願い。

【解答例】
①若くして一人死ぬと言う運命を受け入れようとしている決然とした気持ちが表れている。
②「自利」=自分のためだけで必死だった短い人生を恥じ、「利他」=他者の為に生きられる人生への願いが込められている。


【第五問】
「おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが兜率の天の食に変つて
やがてはおまへとみんなとに
聖い資糧をもたらすことを
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」
には、「わたくし」のどのような祈りや願いが込められているだろうか。

【解答のポイント】
⑤漢字・重要語句、⑥段落要約で説明した内容を振り返ろう!

【解答例】
「どうかこれが兜率の天の食に変つて
やがてはおまへとみんなとに
聖い資糧をもたらすことを」
には、妹が願ったみんなの幸福を願う気持ちが感じられ、
「わたくしのすべてのさいはひをかけてねがふ」
には、自分のあらゆる幸福と引き換えにしても良い、という祈りが感じられる。


素晴らしい作品で、感動した人も多いのではないでしょうか?
解釈が難しいですが、詩は面白いですね!

最後まで見てくださってありがとうございました🐻
定期テストがんばれ〜🐻

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