【定期テスト対策】文系と理系の壁はあるか《最相葉月》教科書本文解説(現代文)

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①本文

文系と理系の壁はあるかー最相葉月

 新著を出すと、さまざまなメディアから著者インタビューの依頼をいただく。本を作ってくれた編集者はじめ関係者の方々への感謝も込め、宣伝のためにもできるだけ引き受けるようにしている。そんなインタビューでよく聞かれることがある。物理学から脳神経科学、宇宙科学までさまざまな分野で活躍する十二人の科学者とその研究内容を取材した時もそうだつた。ある新聞記者がいった。
「サイショウさんは文系出身なのに、どうしてこんなに科学の取材ができるのですか」

 この問いにはニつのニュアンスがある。一つは、理系出身じゃないのにこれだけいろんな分野の科学者を取材できてすごいですねという驚きと、なかばお世辞として。もう一つは、理系出身じゃないのに無理して科学の取材なんかするんじゃないよ、という批判を込めて。遺伝子組換え技術に至るまでのバラ育種の歴史と文化にまつわる作品を書いた時には、自然科学を専門としない著者がその分野について書く意味があるのかといった内容の書評をある科学者に書かれたこともある。アカデミズムに歴然とある、専門外の人間が口を出しなさんなという昔ながらの不文律にしばられているのだろう。

 確かに英米の科学ノンフィクションを見渡すと、科学者自身の著作か科学者とライターの共著、単著の場合はライターが少なくともその分野の専門家であることが多い。彼らの仕事の意義と影響力をみると、専門家であることがいかに大きな信頼を読者に与えているかが理解できる。

 だが英米ほど科学ジャーナリズムやその市場が成熟しているとはいえない日本では、たとえ専門分野を修めた優秀な人でも筆一本で生活しているライターはごくわずかである。全国の大学が文部科学省の予算で科学ジャーナリズム講座を展開し始めたので状況は多少変わりつつあるが、いまのところ日本で科学ジャーナリストといえば新聞社やテレビ局など組織に所属する科学記者が大半である。学生時代に科学を専攻して海外で科学ジャーナリズムを学んだエキスパートと呼べる記者もいるが、文系出身の記者も多い。一般読者にわかりやすく伝えることが使命であるため、専門知識は現場で学んでいけばいいという考え方だ。これは理科教育のあり方から議論しなければならないが、要するに、よほど関心の高い読者は例外として、科学の本を楽しんで読んでくれる人が日本にはまだまだ少ないのである。

 そもそも私が科学技術と人間の関わりを主体的に考えるきっかけとなったのは、一九九七年のクローン羊ドリー誕生の報道と、翌年報じられた非配偶者間体外受精をはじめとする生殖医療の展開、さらには組織や臓器を再生するもととなる受精卵由来のES細胞や、中絶胎児由来のEG細胞の樹立である。科学技術が身体の内部に入り込み、時計の針を巻き戻すように新たな生命をつくり出したり、新たな生命を選別したりする技術の登場にどうしようもない違和感を覚えた。ドリーをつくった英ロスリン研究所のイアン·ウイルマット博士をインタビューした時の一言は、その後の私の仕事を決定づけた。
「ドリーは医療を目的として生まれたが、クローン技術は使い方を間違えばクローン人間を誕生させることにもなる。われわれ科学者だけでなく、あなたがたもこの技術をどうすればいいのか、どうかみなさんで考えてください」

 科学のことは科学者にまかせておけばいいのではない。成果を享受するのは私たちなのだから、私たちには技術を理解してその社会的な影響を考え、最終的な選択を行う責任がある。少なくとも生命科学を取材するにあたって、理系文系という色分けがいかにナンセンスであるかを確信したのはこの時だった。

 そんなわけで、先の記者の問いに対する私の答えは一つである。なぜ物書きが、理系だから、文系だから、専門家だから、専門家じゃないから、と自分の視野を狭めるような棚をはめねばならないのか。物事をよりわかりやすくする手がかりとして科学的視点が必要とあれば、それは大いに利用すればいい。もちろん専門的内容は容易には理解 できないから人一倍勉強しなければならないが、科学も同じ人間の営みなのだから、理系かどうかという理由で排除してしまうことはあまりにももったいないと思うのである。


②漢字・重要語句

【1】編集者

《意味》
雑誌や書籍などの企画立案、原稿整理、進行管理、編集作業など、本を作るときのディレクターの役割をする職業の人。

【2】宣伝のためにも

《意味》
新著を出したときに、執筆者インタビューが新聞屋雑誌などの媒体に掲載されることで、多くの読者に本が出版されたことを宣伝することができる。

【3】物理学

《意味》
自然界の現象を理解するための学問。

【4】脳神経科学

《意味》
知覚・運動・記憶・学習・感情など、脳や神経の働きを研究する学問。

【5】宇宙科学

《意味》
宇宙での観測を主体とした科学。

【6】お世辞

《意味》
口先の褒め言葉。

【7】遺伝子組替え技術

《意味》
生物の遺伝子を、改良しようとする別の生物のの遺伝子配列に組み込み、新たな性質を加える技術。このことによって、消費者のニーズに沿った害虫やウィルスに抵抗性のある作物などが作られている。

【8】バラ育種の歴史と文化にまつわる作品

《意味》
筆者は、2001年に「青いバラ」という作品を出版した。遺伝子組換え技術を用いて青いバラを可能にするニュースに違和感を覚え、バラ育種の歴史について取材・執筆した著書。

【9】歴然

《意味》
明白なこと

【10】不文律

《意味》
暗黙のうちに守られている約束・ルール

【11】ノンフィクション

《意味》
事実に即して作られた作品。ルポルタージュや伝記などのこと。

【12】ライター

《意味》
文章を書くことを職業とする人。執筆家。

【13】その市場が成熟しているとはいえない日本人

《意味》
科学ジャーナリズム分野の出版物が多く読まれない、買われない、ということ。

【14】筆一本で生活している

《意味》
執筆業だけで生計を立てること。

【15】いまのところ〜大半である

《意味》
日本の科学ジャーナリストは、マスメディアの組織に所属する科学記者が大半で、フリーランスはほとんどいない。

【16】非配偶者間体外受精

《意味》
不妊治療などのために、配偶者(夫婦)でない第三者(ドナー)の卵子や精子を体外で受精させて、レシピエント(受容者)の卵巣に戻し、妊娠を成立させること。

【17】生殖医療

《意味》
人工授精や体外受精などの生殖技術を用いて妊娠・出産しようとする不妊治療のこと。

【18】ES細胞

《意味》
生物の血液、神経、肝臓、膵臓など、全身の細胞を作り出すことができる細胞。再生医療への応用が期待される。しかし、受精卵から採取して作るため倫理的に問題があるという考えもあった。

【19】どうしようもない違和感

《意味》
筆者は科学技術が、本来人知の及ばぬ生命の選択や選別を技術的に操作することに、強い困惑や納得のいかぬ想いを抱いている。

【20】クローン技術は〜誕生させることにもなる

《意味》
イアン・ウィルマット博士は、クローン人間が誕生することはあってはならないと判断している。

【21】享受

《意味》
自分のもとする。

【22】ナンセンス

《意味》
意味のないこと。

【23】先の記者の問い

《意味》
「サイショウさんは文系出身なのに、どうしてこんなに科学の取材ができるのですか」という問い

【24】枷

《意味》
行動の妨げ。昔、罪人の手首足にはめて拘束した枷から転じた。

【25】排除

《意味》
締め出すこと。筆者は科学も人間の営みなのだから、物書きとして広い視野で勉強し関わるべきだと考えているので、理系文系という括りで締め出されることに賛成していない。


③段落要約

【1】第一段落

筆者はインタビューを受けると「文系出身なのに、どうしてこんなに科学の取材ができるのですか」ということを聞かれる。この問いには、お世辞と批判が込められている場合があり、アカデミズムは専門外の人間が口を出すなという不文律に縛られている。

【2】第二段落

英米の化学ノンフィクションは、科学者やその分野の専門家のライターが執筆していることが多い。日本では、科学ジャーナリストは新聞社やテレビ局など組織に所属する科学記者が大半で、文系出身の記者も多く、一般読者にわかりやすく伝えることが使命なのである。

【3】第三段落

1997年のクローン羊ドリー誕生、翌年報じられた非配偶者間体外受精と生殖医療の展開、ES細胞・EG細胞など、新たな生命を選別する技術の登場に違和感を覚えた筆者は、科学のことは科学者に任せておけばよいのではなく、成果を享受する私たちが最終的な選択を行う責任があると考える。理系文系、専門家などといった色分けで、視野を狭める必要はない。


④定期テスト予想問題

【第1問】
「サイショウさんは〜どうしてこんなに科学の取材ができるのですか」という言葉を、筆者はどのようなものとして受け止めているか?

【解答のポイント】
筆者は、「この問いには二つのニュアンスがある」と述べているので、その二つの内容を読み取る。

【解答例】
理系出身ではないのに科学者を取材できてすごいですねというお世辞と、理系出身ではないのに無理して科学の取材などするなという批判の二つのニュアンスが含まれたものと受け止めている。

【第2問】
「科学のことは科学者にまかせておけばいいのではない」とはどういうことか?

【解答のポイント】
筆者は、「科学技術と人間の関わりを主体的に」と考えている。そしてドリーを作ったイアン・ウィルマット博士の言葉で、自分の仕事の態度を決定づけられている。その内容をまとめ記述する。

【解答例】
科学の成果を享受するのは、一般の私たちであるから、私たち地震が技術を理解して、その社会的な影響を考え、最終的な選択を行う責任があるということ。

【第3問】
「文系と理系の壁」という問題について、あなたはどう考えるか。

【解答例】
こちらは動画の内容を参考にしてみてね🐻
動画の先生は慶應義塾大学総合政策学部という文系理系融合の学部を進学し、学んでいたので面白い角度の考えを聞けると思いますよ❗️

最後まで見てくださってありがとうございました🐻
定期テストがんばれ〜🐻

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